2015年08月29日

榛沢御陣跡

「太田道灌状」(1480年)の第5段には、上杉顕定が榛沢御陣(はんざわごじん)にいたことが記されています。
「専去々年於秩父、多比良治部小輔所帯事訴訟被申候処、御領掌、既御落居様被仰候而、無其曲候之間、外聞口惜令存候歟。此事も秩父御陣御難儀奉見。構要害人躰候之間、不慮奉恨、色をも顕候者大切候上、彼仁出頭事、榛沢御陣之時、被奉加一言候之間、以旁儀被申候歟」
《専ら一昨年(文明10年)秩父に於いて、多比良治部小輔の所帯の事を(定正が)訴訟したところ、(顕定は)御領掌し、既に解決したようにおっしゃいまして、その結果がなかったので、(定正は)世間の評判を口惜しく思っていたのでしょうか。此事でも秩父御陣御難儀と(私は)考えます。(多比良は)要害を構える人物であるので、思いがけずに恨んで、(反抗の)行動を起こすことがあれば大変であるので、あの男が出頭の事、榛沢御陣の時、(定正が顕定に)一言話したので、いろいろなことを伝えたのでしょうか》
 
また、第21段では、道灌が榛沢御陣で上杉顕定を迎えたことが、記されています。
未明打立、道灌、景春陣江馳向候処、令退散候。其隙二公方様利根河お御越、古河へ御帰座候キ。然間修理太夫森腰二取陣。道灌者其儘成田張陣、榛沢へ御着お奉待請候。雖然可被立御旗地無候由、御内談候之処、道灌如申者、鉢形要害可然存所候。其故者、大将計有御座御用心之儀者不十分候。祇候面々不退奉従、相兼武上両国地形簡要之由申候処、為始忠景一両輩不庶幾由被申候しか共、當城被移御旗候。其己後若干雖危子細等候、至干今日者、為御無為両国安全御抱候事、非道灌功候哉
《未明に出発して、道灌は、景春の陣へ馳せ向ったところ、景春は退散しました。其の隙に公方様は利根川をお渡りになり、古河へ御帰座されました。その間に修理太夫は森腰に陣を取り、道灌はそのまま成田へ陣を張り、(顕定の)榛沢への到着を待っていました。しかしながら(天子の)御旗を立てるべき地がないので、相談をしていました。道灌の主張は、鉢形の要害に(顕定が)入城すべきだ、ということでした、其の故は、<(平井城は)大将計りの御座があっても御用心は不十分です、つき従う人々が去らずに従い奉り、武上両国に(睨みをきかす)地形が簡要であると言ったところ、忠景始めとして2,3人が賛成ではないと言ったけれども、(顕定は)当城《鉢形城》へ御旗を移されました。それ以後は若干の危ない出来事等があったといえども、今日に至るも、平穏であり両国を安全に治めている事は、道灌の功績ではないだろうか》
両段の内容は前後関係から考えて、上杉顕定の榛沢御陣在陣という同一の事を記述していると思われます。1478年(文明10年)道灌は、古河公方の要請にしたがって鉢形城の景春軍を攻撃し、敗走する景春軍を秩父へ追走しました。このとき秩父で、多比良氏の帰属ならびに所領問題が持ち上がったと思われます。
その後道灌は、顕定に鉢形入城を勧めました。顕定の居城平井城は関東平野の北端であるのに比べると、鉢形城は武蔵と上野ににらみを利かすには絶好の位置でした。道灌は、「地形肝要」という戦略上の観点から、顕定に鉢形入場を強く勧めたので、以後鉢形城は山内上杉家の本拠地となりました。
景春軍の秩父移動後に、顕定の鉢形入城という重要な出来事の発端の場所となった榛沢御陣とはいったいどこなのでしょうか。埼玉県深谷市の道の駅「はなぞの」から県道86号線に入り、北方へ小一時間分も走ると「榛沢」という道路標識がかかる交差点へきます。このあたりが榛沢で、上越線本庄駅から約3キロの地点です。あたりは平坦な畑作地帯で、志戸川という川が蛇行しています。
002.JPG    
(榛沢交差点の道路標識)   
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(蛇行する志戸川)
深谷市教育委員会の説明によると、「榛沢御陣とは、上杉顕定軍が布陣したところで、深谷市榛沢の五十子寄りの地であったと思われるが特定できない」とのことです。
県道86号線の榛沢交差点の近傍に榛沢小学校があり、私はその小学校敷地が榛沢御陣跡と推測しました。なぜならばそこでは、蛇行する志戸川が小学校敷地の東半分を囲み、水堀の役目を果たしているからです。「榛」とは、雑木や草が乱れて延びるさま、また、そういう場所を意味します。したがって往時は志戸川が 雑木と雑草に覆われた、相当けわしい沢となって、外敵に対する防衛線となっていたに違いありません。
榛沢から北方約2キロのところに五十子陣跡があり、南方の隣接した地域には岡部、針ヶ谷、用土など、「太田道灌状」と「松陰私語」に登場する地名の場所があります。当時上杉方の五十子陣が、長尾景春の攻撃で崩壊していたので、管領山内顕定は、榛沢を一時の御陣としたのでした。
posted by otadoukan at 17:16| Comment(0) | 榛沢御陣跡
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