2011年06月06日

道灌草(ナデシコ科ドウカン属ドウカンソウ)

JR山手線の西日暮里(にしにっぽり)駅の奥山が道灌山です。現在そこは西日暮里公園となり、道灌山の由来を記したパネルが設置されています。それによると、この高台から近くの開成学園のあたりまでは、かつて太田道灌が出城を造ったところです。開成学園の北東に道灌山坂があります。

江戸時代の観光ガイドブック「江戸名所図絵(えどめいしょずえ)」(1836年)には、「道灌船繋松(どうかんふなつなぎまつ)」の絵が出ています。「つなぐ」とは「目的にする」という意味だそうです。当時、道灌山の近くまで海が入り込んでいて、この高台に松の巨木が二本あり、船人はこの松を目当てに船を操ったといわれています。江戸時代にはこの高台からの眺めがよく、富士山や筑波山、日光山も見えたそうです。江戸時代の安藤広重の錦絵に、当時の眺望が描かれています。 
また当時、このあたりは薬草が豊富で、一年中採取者が訪れました。江戸時代に南ヨーロッパから中国を経て伝えられたバッカリア・サボナリヤ(ナデシコ科ドウカン属)という草花は、道灌山に群生して晩春にピンク色の花を咲かせたので「道灌草」と呼ばれ、今では都立舎人(とねり)公園などに植えられています。またこのあたりは虫聞き、月見、雪見、花見の名所としても知られ、庶民が一日中過ごせたので「ひぐらしの里」すなわち「日暮里(ひぐらしのさと)」と呼ばれました。十返舎一九が次のように詠みました。
 桃さくら鯛より酒のさかなには見どころ多く日ぐらしの里

さて道灌草を求めて都立舎人公園へ行ってみました。JR山手線の日暮里で舎人ライナーという無人運転の電車に乗ると、約20分で広大な舎人公園へ着きます。舎人公園サービスセンターの近くのボランティア花壇で、津村昭人氏の案内によりようやく道灌草を見つけました。昨年はたくさん咲いていましたが、今年はわずかしかありません。道灌草はナデシコの仲間で、高さ50センチメートル位の一本の茎に小さくうすいピンク色の花をたくさん咲かせます。色も形も控えめな花です。
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(広大な舎人公園)                 
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(道灌草)
以下は、津村氏の提供による道灌草の詳細です。
ナデシコ科ドウカン属(旧ナデシコ科サポナリア属):ドウカンソウ(種名)
名前は、バッカリア・ピラミダタ(学名Vaccaria pyramidataより)、ドウカンソウ(現属名より)、サポナリア(旧属名より)などの呼び名があります。日本帰化植物写真図鑑や牧野植物図鑑にも紹介されています。
似た花にサクラマンテマ(フクロナデシコ、オオマンテマ)がありますが、これはサクラに似た花形でドウカンソウとは異なります。また、花の基部の膨らみが角ばっているのも区別点です。以下に引用したものを紹介させていただきました。
ドウカンソウ(どうかんそう) [ 日本大百科全書(小学館) ] 【道灌草】
[学名:Vaccaria pyramidata Medik
(=Lychnis vaccaria Scop. =Saponaria vaccaria L.)]
ナデシコ科の一年草。カスミソウに似た草姿で、全株無毛。茎は上部でまばらに分枝し、高さ約50センチメートル、ろう質で粉緑色にみえる。5月、集散花序をつくり、淡紅色で径約2センチメートルの5弁花を開く。白色花の変種もある。南ヨーロッパ、西アジア原産。江戸時代に中国から導入され、江戸郊外の道灌山(どうかんやま)で栽培されたので、ドウカンソウの名がある。今日、学名のバッカリアの名で栽培され、花壇植えや切り花にする。
切り花ではカスミソウのように添え花に利用する。性質は強健で、土質を選ばないが、日当りと排水のよい場所で育てる。おもに秋播(ま)きにするが、春播きもできる。[ 執筆者:山口美智子 ]

津村氏は、広大な舎人公園の全植物の99パーセントを知っていると語っています。ついでに、公園内の道灌有縁の花である八重山吹、一重山吹、白山吹も案内していただきました。私は津村氏に「来年は、舎人公園に道灌草をたくさん植えてください」とお願いしてきました。道灌の名がつく地名は首都圏にたくさんあるけれども、道灌さんが植物の命名にまで貢献したとは、本人が一番驚いていることでしょう。本家本元の道灌山・西日暮里公園にも、昔のように道灌草の花畑をつくってほしいと私は切望しています。